’95.1.19−3日目−

朝、早くから親父がばたばたしている。
地下鉄が板宿まで動いているので、長田に居る知人を探しに行くのだという。
おにぎりと水を持ち、地下鉄は板宿までなので、折り畳みの自転車をもって出かけるという。
揺れるか、揺れるかと思いながら、何をするでもなく家にいるのは耐えられない。
一人より、二人の方が何かと便利じゃないかと思い立ち、一緒に出かけることにする。
地下鉄は満員だ。
板宿商店街では、壊れかけた店や、店の前で商売が再開されつつある。
「ただでいいから持ってって」という店もある。
少し行くと、おまんじゅうやさんが営業している。
疲れたときには甘いものだと思い、だれにあげるともなく、いくつかに分けて包んでもらう。

長田高校。
入り口にノートが置いてあり、そのに居る人の名前がかかれてある。
みつからない。
とりあえず家へ行ってみる。
家へ通じるはずの急な階段は、つぶれた木造家屋のがれきが流れ込んでいて、とてもあがって行けない。
近所の人に、私立学校で避難所に認定されていないが、常盤高校にも避難している人が居ると聞く。
受付の事務所があり、名前で探してもらう。
体育館にいるという。
1周したがわからない。
昼間は自宅へ戻っている人もいると聞かされる。
ふと、目の前におばさんが、いた!
「元気?」「元気」
おじさんと息子夫婦は家を片付けにいっているという。
床に布団を引き、石油ストーブをたいている。
決して暖かくはない。
おにぎり、水、おまんじゅうをさしいれする。
「がんばってね」他に言える言葉はみつからない。
何を言っていいのか思い付かない。
家はたっているけれど、通じる道がぐちゃぐちゃだ。

また、他の家族を探しに行く。
もうひとつ学校がある。(名前を忘れてしまった)
最近、校舎が新しくなったばかりの学校で、設備も整い、きれいだ。
やはり入り口の受付で、住所と名前を紙に書いて渡すと、名簿で調べて、放送で呼び出してくれる。
来ない。
家に帰っているのだろうか?
しばらくして、一人現われる。若いおとうさんだが、顔が疲れきっている。
アパートに居て、1Fがつぶれてしまったとのこと。
小さな子供が一緒だ。
が、おにぎりは、大きな体育館でみんなおいてきたので、おまんじゅうをさしいれる。
本当に、通りすがりのおまんじゅうやさんで買って来たおまんじゅうに、涙してくださった。
他に必要なものは?と聞くが、遠慮して「大丈夫」とおっしゃる。
明日、おにぎりをもってきますと約束して別れる。
おなじアパートに居た人の様子を聞く。
一家族は、同じ避難所にきているが、今いないという。
もう一家族は、
おばあさんが、つぶれた1Fで亡くなられたという。
相方のおじいさんに会いに、聞いたお寺へ。
遺体はすでに、遺体安置所になっている村野高校へ行ったという。
遺体番号を教えてもらって、道を聞き聞き、村野高校へ。

途中の道では、塀を乗り越えて道路にとびだしている墓石もあった。
長田神社のあたりからは、まだ焦げ臭いにおいが漂っている。

何人かに聞いて挙げ句、村野高校に到着。
ここも、入り口にどの校舎に、どの番号の遺体が安置されているか表示がされている。
すでに体育館はいっぱいで、普通教室を使っているとのこと。
聞いた番号は300番代だった。
校舎を探してグランドに出てしまった。
その光景は、果たしてここは日本か?と身震いがおきるものだった。
自衛隊の駐屯地になっている。
グランドいっぱいにカーキ色のテントとジープ、自衛隊員の列。
なんともいたたまれない気持ちに追いやられる。
ここは戦場なのか?
人の心が安らげない光景だ。

探している部屋は、校舎の2F。
外付けになっている階段を上がる時、学校の塀越しに見えたのは、
3車線づつある広い道路に、2車線づつ縦列駐車されたジープと消防車の長い列。
そのすきまを救急車が擦り抜ける。
これが今、日本なのか?まともじゃない。
カーキ色と赤の組み合わせは、無性に心を落ち着かせなくし、やり場のない気持ちが沸き起こる。

各教室の扉には、遺体番号と氏名、氏名がわからない遺体は、男女の別と、およその年齢が書かれてある。
教室へ入ると、きちんと机の上に棺桶が置かれてある遺体から、毛布にくるまれて運ばれて来たまま床に置かれた遺体まで様々である。
その場で、お坊さんがこられてお教をあげているところもある。
探していた遺体は、棺桶にいれられ、机に置かれてあった。すでに親族が来られている。
が、どなたもいらっしゃらない。
しばらく廊下で待つ。
遺体が到着する。空の棺桶がどんどん運ばれる。
親戚が到着しないと、遺体は棺桶にも入れてもらえないのである。
しばらく待っていたが、暗くなるので歩きの私は、板宿までの道を聞き先に帰ることにする。

途中、右も左も一面焼け野原の中を歩く。
まだ焦げ臭い。
暗くなるのでひたすら歩く。
蓮池小学校の前も通った。
道がよくわからないけれど、とにかく人が向かっている方についてゆく。
約一時間歩いて、板宿到着。
ラッシュアワーのような地下鉄に乗り、帰途に着く。
身体が疲れているのかどうなのかも、よくわからない。

[3日目編 end]


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